犬の椎間板ヘルニア|初期の痛みのサインから重症度・手術の判断・再発予防まで獣医師が解説

「急に抱っこを嫌がるようになった」「段差を上がらなくなった」「後ろ足がふらつく」——こうした変化で疑われる代表的な病気が椎間板ヘルニアです。

この病気で何より大切なのは、時間です。痛みだけの段階なら安静と内服で回復が見込めますが、麻痺が進んでからでは選択肢が狭まり、後遺症が残ることもあります。「昨日より少し悪いかも」と感じた時点が、受診のタイミングです。

この記事では、初期サインの見つけ方、重症度の段階、治療の選び方、そして再発を防ぐ環境づくりまでをまとめました。

【緊急】この状態はすぐご連絡ください

先にお伝えします。次の状態は時間との勝負です。

  • 急に後ろ足が動かなくなった、立てなくなった
  • おしっこが自分で出せない(膀胱が張っているのに出ない)
  • 後ろ足をつねっても痛がる反応がまったくない
  • 前足にも症状が出ている、呼吸が苦しそう

とくに「足の感覚がなくなっている」状態は、手術までの時間が回復率を左右します。様子をみずにお電話ください。移動のときは、体をねじらないよう板やバスタオルで水平に支えて運んでください。

椎間板ヘルニアとはどんな病気か

背骨と背骨の間には、椎間板というクッションがあります。これが変性して飛び出し、すぐ上を通る脊髄(神経の束)を圧迫するのが椎間板ヘルニアです。

圧迫される場所と程度によって、症状は「背中が痛い」から「後ろ足がまったく動かない」まで大きく変わります。発症の仕方も、ある日突然キャンと鳴いて動けなくなることも、数日から数週間かけて少しずつ進むこともあります。

なりやすい犬種と要因

ミニチュア・ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー、ビーグル、シーズー、ペキニーズなどは、遺伝的に椎間板が変性しやすい体質を持っています。若いうち(3〜6歳)に突然発症することもあります。

ただし、どの犬種でも起こります。次の要因が重なるとリスクが上がります。

  • 肥満:背骨への負担が直接増えます
  • 滑る床:フローリングで足を踏ん張る動作が、日々ダメージを蓄積させます
  • ソファやベッドからの飛び降り:着地の衝撃が背骨に集中します
  • 階段の上り下り、二本足で立つ姿勢
  • 加齢による椎間板の変性

【チェックリスト】初期のサインは「痛み」

最初に出るのは麻痺ではなく痛みです。この段階で気づけるかどうかが分かれ目になります。

  • 抱っこを嫌がる、抱き上げるとキャンと鳴く
  • 背中や腰を触ると嫌がる、震える
  • 背中を丸めて動かない、首を下げたままにしている
  • 段差や階段を避けるようになった
  • 歩き方がぎこちない、歩幅が小さい
  • ソファに飛び乗らなくなった
  • 食欲はあるのに動きたがらない

震えは痛みのサインであることが多いです。寒くもないのに震えている、呼んでも動かないという場合は、どこかが痛いと考えてください。

→ 犬の震えは大丈夫?様子見OKの震えとすぐ受診すべき震えの見分け方

重症度の段階

椎間板ヘルニアは、神経の障害の程度によって段階的に評価します。治療方針も予後も、この段階で大きく変わります。

  • 段階1:痛みだけ — 歩けるが痛がる。安静と内服で回復が見込めます
  • 段階2:ふらつく — 歩けるが後ろ足がよろける、足先を引きずる
  • 段階3:立てない — 足は動かせるが、自力で立って歩けない
  • 段階4:動かせない+排尿できない — 後ろ足をまったく動かせず、自分でおしっこが出せない
  • 段階5:痛みを感じない — 足をつねっても反応がない。もっとも重症で、緊急です

段階5の「深部痛覚の消失」は、回復できるかどうかの大きな分かれ目になります。この状態になってからの時間が短いほど、手術による回復の可能性が高くなります。だからこそ急ぐ必要があるのです。

後ろ足のふらつき=椎間板とは限りません

「後ろ足がふらつく」と聞くと椎間板ヘルニアを思い浮かべますが、実際には別の原因であることも多くあります。診察ではまずここを切り分けます。

  • 前庭疾患(耳や脳の病気):首が傾く、目が揺れる、同じ方向に回る、吐き気を伴う。中高齢犬に多く、突然起こります
  • 脳や脊髄の病気:意識の変化、片側だけの麻痺、行動の異常を伴うことがあります
  • 膝や股関節の問題:前十字靭帯断裂、膝蓋骨脱臼など。痛みでかばって歩いている状態です
  • 低血糖・貧血・電解質異常:全身の問題でふらつくこともあります
  • 変性性脊髄症:痛みを伴わずゆっくり後ろ足が弱っていく病気で、特定の犬種に見られます

見分けのポイントとして、首が傾く・目が揺れる・吐き気があるなら前庭系、背中を痛がるなら椎間板、痛みがなくゆっくり進むなら別の神経の病気を疑います。

→ 犬の前庭疾患|急なふらつき・首の傾き・眼振のサインと回復までの経過
→ 犬の前十字靭帯断裂とは?突然の後ろ足のびっこ・手術とリハビリ

当院での検査

まず神経学的検査を行います。歩き方、姿勢を戻す反応、反射、痛みの部位、深部痛覚の有無を確認し、障害がどのあたりにあるか、どの段階かを判断します。手を使った検査が中心で、体への負担はありません。

レントゲン検査では、骨折や腫瘍など別の原因を除外します。ただし椎間板そのものはレントゲンに写りません。手術を検討する段階では、MRIやCTが必要になり、その場合は専門施設をご紹介します。

費用について:検査と治療の内容によって変わります。事前にご説明してから進めますので、お電話でお気軽にお問い合わせください(TEL: 055-269-5539)。

治療

内科治療 — 鍵は「安静」です

軽度から中等度では、まず内科治療を選びます。消炎鎮痛薬で痛みと炎症を抑えますが、薬よりも大切なのが安静(ケージレスト)です。

ここは誤解されやすい部分なので、はっきり書きます。ケージレストは「あまり動かさない」ではなく、「ケージから出さない」です。

  • 期間は最低でも2〜4週間
  • トイレと食事以外はケージの中で過ごす
  • ケージの広さは、方向転換はできるが走れない程度
  • 散歩は中止。トイレは抱えて連れて行く
  • 薬で痛みが取れると元気に見えますが、治ったわけではありません

「かわいそうだから」と早めに自由にしてしまうと、せっかく落ち着いた炎症がぶり返します。ここを守れるかどうかで結果が変わるので、いちばん頑張っていただきたいところです。

手術を検討する場合

重度の麻痺がある場合、内科治療で改善しない場合、繰り返す場合には手術を検討します。神経を圧迫している椎間板物質を取り除く手術で、専門施設で行います。

判断で重要なのは時間です。歩けなくなってから、痛覚がなくなってから、時間が経つほど回復率は下がります。迷っている時間が結果に響くので、重い症状のときはすぐにご連絡ください。

再発を防ぐ環境づくり

一度発症した子は、ほかの椎間板も変性していることが多く、再発の可能性があります。手術をした場合でも、別の場所で起こることはあります。だからこそ、その後の生活が大切です。

滑らない床にする

もっとも効果が大きく、今日からできる対策です。フローリングはタイルカーペットやマットで覆ってください。部分的にでも、よく通る動線だけでも効果があります。

段差をなくす

  • ソファやベッドにはスロープや階段を置く
  • 飛び降りそうな場所には、そもそも乗せない工夫を
  • 階段にはゲートを設置する

体重管理

体重が増えれば、その分だけ背骨への負担が増えます。適正体重の維持は再発予防の基本です。おやつの量を見直し、月1回は体重を測ってください。

→ 犬猫の食事ガイド|フードの選び方・適量の見極め方

運動は段階的に戻す

症状が落ち着いても、いきなり以前の散歩量に戻さないでください。短い距離から始め、様子をみながら伸ばします。筋肉を保つことは大切ですが、急に戻すのが再発のきっかけになります。

避けたい動作

  • 二本足で立たせる(おやつを上に掲げるなど)
  • 抱き上げるときに体をぶら下げる持ち方。胸とお尻を両手で支え、背骨を水平に保ってください
  • 激しく引っ張るリードの使い方。首輪よりハーネスのほうが負担が少ないです

よくあるご質問

Q. 痛がっているだけなら、数日様子をみてもいいですか?

おすすめしません。痛みだけの段階は、治療の効果がもっとも期待できる時期です。ここで安静にできれば回復することも多い一方、様子をみている間に麻痺へ進むこともあります。「痛がっている」と気づいた時点でご相談ください。

Q. マッサージや整体は効きますか?

急性期に背中を揉んだり動かしたりするのは危険です。圧迫を悪化させることがあります。リハビリは有効ですが、それは状態が落ち着いてから、段階に応じて行うものです。自己判断で始めず、必ずご相談ください。

Q. ケージレストを嫌がって鳴き続けます

よくあるご相談です。ケージを布で覆って落ち着かせる、見える場所に置く、知育トイで気を紛らわせるといった工夫があります。それでも難しい場合は鎮静剤を使う選択肢もあるので、我慢させ続ける前にご相談ください。中途半端に出してしまうのがいちばん避けたいところです。

Q. ダックスフンドを飼っています。予防できますか?

体質そのものは変えられませんが、発症リスクは下げられます。滑らない床、段差をなくす、適正体重の維持、この3つを若いうちから習慣にしてください。何も起きていない今こそ、効果のあるタイミングです。

まとめ

  • 椎間板が飛び出して脊髄を圧迫する病気。ダックスなど特定の犬種に多いが、どの犬にも起こる
  • 初期サインは麻痺ではなく痛み。抱っこを嫌がる、震える、段差を避ける
  • 急に立てない/おしっこが出ない/足の感覚がないは緊急。時間が回復率を左右します
  • 後ろ足のふらつきは、前庭疾患や膝の問題のこともある
  • 内科治療の鍵はケージレスト。「あまり動かさない」ではなく「出さない」
  • 再発予防は滑らない床・段差をなくす・体重管理の3つ
  • 急性期のマッサージは危険。リハビリは落ち着いてから

南アルプス市を中心に、甲府市・韮崎市・中央市・昭和町など周辺地域で、愛犬の歩き方や背中の痛みが気になる場合は、アルプス動物病院までお早めにご相談ください(TEL: 055-269-5539)。急に歩けなくなった場合は、お電話のうえすぐにお越しください。

この記事の監修:アルプス動物病院 院長

最新情報は、下記の公式LINE・Instagramからご覧いただけます📱✨