猫の糖尿病|食べるのに痩せるサインとインスリン治療・寛解の可能性を獣医師が解説

「しっかり食べているのに痩せてきた」「水を飲む量が増えた」「トイレの砂のかたまりが大きくなった」——この3つがそろったとき、まず疑うのが糖尿病です。

猫の糖尿病には、ほかの慢性病とは違う大きな特徴があります。早い段階でしっかり治療すれば、インスリンが不要になる「寛解」に入る子がいるということです。逆に発見が遅れるほど、その可能性は下がっていきます。

つまり、早く気づくことに大きな意味がある病気です。この記事では、サインの見つけ方、検査と治療、自宅での管理、そして緊急のサインまでをまとめました。

猫の糖尿病とは

食事から取り込まれた糖(ブドウ糖)は、インスリンというホルモンの働きで細胞に取り込まれ、エネルギーとして使われます。糖尿病では、このインスリンが足りない、あるいは効きが悪くなることで、糖が血液中に余ったまま細胞に届かなくなります。

その結果、体は「食べているのにエネルギーが足りない」状態になります。だからよく食べるのに痩せていくのです。余った糖は尿に出ていき、水分を一緒に引っ張るため、尿量が増え、失った分を補おうとして水をたくさん飲むようになります。

なりやすい猫

  • 肥満:最大の要因です。太っているとインスリンの効きが悪くなります
  • オスの去勢猫:統計的に多い傾向があります
  • 中高齢(7歳以上)
  • 運動不足、ステロイド薬の長期使用

肥満は唯一、こちらで変えられる要因です。予防という意味でも、体重管理が効きます。

【チェックリスト】気づきのサイン

初期に見られること

  • 水を飲む量が増えた(水の減り方、給水器に行く回数)
  • 尿の量・回数が増えた(砂のかたまりが大きい、トイレ掃除の頻度が増えた)
  • 食べているのに体重が減る
  • 毛づやが悪くなった、毛づくろいをしなくなった

この病気がやっかいなのは、食欲が落ちないことです。むしろ増えることもあります。「よく食べている=元気」と判断されやすく、発見が遅れる最大の理由がここにあります。

進行すると出てくること

  • 元気がなくなる、寝ている時間が増える
  • 後ろ足がふらつく、かかとを床につけて歩く(糖尿病性の神経障害に特徴的な歩き方です)
  • 食欲が落ちてくる

【緊急】この状態はすぐにご連絡ください

糖尿病が進むと、体は糖のかわりに脂肪を燃やし始め、その副産物(ケトン体)が血液を酸性に傾けます。これが糖尿病性ケトアシドーシスで、命に関わる状態です。

  • 急に食欲がなくなった
  • 何度も吐く
  • ぐったりして動かない
  • 呼吸が速い、荒い
  • 息が甘酸っぱいにおいがする

糖尿病と診断されている子でこうした変化が出たら、様子をみずにすぐご連絡ください。入院での集中的な治療が必要になります。

当院での検査

血液検査と尿検査

血糖値を測り、尿に糖が出ているかを確認します。ただし猫は緊張しただけで血糖値が上がるという、診断をややこしくする性質があります。病院に来たストレスで数値が高く出ることが珍しくありません。

そこで役立つのがフルクトサミンという項目です。これは過去1〜2週間の平均的な血糖の状態を反映するため、その場の緊張に左右されません。一度の血糖値だけで判断せず、これらを組み合わせて診断します。

全身の確認

糖尿病は全身に影響するため、腎臓・肝臓の状態、膵炎の有無、甲状腺ホルモンもあわせて確認します。多飲多尿は腎臓病や甲状腺機能亢進症でも起こるので、それらを除外する意味もあります。

→ 猫の慢性腎臓病(CKD)とは?初期症状・検査・食事療法
→ 猫の甲状腺機能亢進症|食べるのに痩せるサインと治療

費用について:検査の内容によって変わります。事前にご説明してから進めますので、お電話でお気軽にお問い合わせください(TEL: 055-269-5539)。

治療 — インスリン注射と食事

インスリン注射について

「自分で注射なんてできない」と不安に思われる方がほとんどです。ですが、実際にやってみると多くの方が数日で慣れます。

  • 針は非常に細く、猫はほとんど痛みを感じません。ごはんを食べながら打たせてくれる子も多いです
  • 打つのは皮下(背中のあたりの皮をつまんだところ)で、血管を狙う必要はありません
  • 1日2回、12時間おきが基本です
  • 最初は病院で一緒に練習します。できるようになるまでお付き合いします

注意点として、人用のインスリンを自己判断で使わないでください。濃度も種類も違い、専用の注射器でないと量を間違えます。

食事療法

猫の糖尿病では高たんぱく・低炭水化物の療法食が基本です。血糖の上がり方がゆるやかになり、インスリンの必要量が減ります。食事を変えただけで数値が改善する子もいます。

与える時間も大切です。注射と食事のタイミングを毎日同じにし、量も一定に保ってください。おやつを急に増やすと血糖が乱れます。

→ 犬猫の食事ガイド|フードの選び方・適量の見極め方

低血糖への備え

治療中にもっとも注意すべきなのが、血糖が下がりすぎる低血糖です。

  • ふらつく、ぼんやりしている
  • ぐったりする、呼びかけへの反応が鈍い
  • けいれんする

こうした様子が出たら、ガムシロップやはちみつを歯ぐきに塗り、すぐにご連絡ください。意識がないときに口に流し込むと誤嚥するので、歯ぐきや頬の内側に塗るのがポイントです。

また、食べていないときはインスリンを打たないのが原則です。食欲がない日は自己判断で打たず、まずご連絡ください。

「寛解」という可能性

猫の糖尿病が犬と大きく違うのがこの点です。治療を続けるうちにインスリンが不要になる子がいます。これを寛解といいます。

高血糖が続くと膵臓がさらに疲弊するという悪循環があり、早い段階でしっかり血糖をコントロールすると、その膵臓が回復してくることがあるのです。診断から早く、厳密に管理を始めるほど、寛解に入る可能性は高くなります。

ただし寛解は「完治」ではありません。再発することもあるため、その後も飲水量や体重の観察は続けてください。

この可能性があるからこそ、最初の数か月の頑張りには意味があります。

おうちでの管理

記録をつける

難しく考える必要はありません。ノートやスマホのメモに、次の4つを書いておくだけで十分です。

  • 食べた量
  • 水を飲んだ量(ペットボトルで与えると量りやすいです)
  • 尿のかたまりの数と大きさ
  • 体重(月1回でも)

この記録が、インスリンの量を調整するうえでの最大の手がかりになります。

生活リズムを一定に

食事、注射、就寝の時間をできるだけ揃えてください。旅行や留守番で生活が乱れるときは、事前にご相談いただければ対応を一緒に考えます。

定期検査を続ける

状態が安定するまでは1〜2週間ごと、落ち着いてからは数か月ごとに検査を行い、インスリンの量を調整します。自己判断で量を変えたり中断したりしないでください。

→ 犬・猫の健康チェック完全ガイド|毎日の観察と触診、定期健診の頻度と内容

よくあるご質問

Q. 注射が怖くて自信がありません

ほとんどの方が最初はそうおっしゃいます。病院で実際に手を動かしていただきながら練習します。針が細いので猫も嫌がらないことが多く、ごはんの時間とセットにすると習慣になりやすいです。どうしても難しい場合は、ほかの選択肢も一緒に考えます。

Q. 飲み薬ではだめですか?

猫では、インスリン注射がもっとも確実で安全な方法とされています。近年は内服薬の選択肢も出てきていますが、適応となる条件があり、すべての子に使えるわけではありません。状態をみたうえでご提案します。

Q. 旅行や出張のときはどうすればいいですか?

事前にご相談ください。預かり先で注射をお願いできるか、スケジュールをどう調整するかなど、状況に合わせて方法を考えます。黙って数日打たないのはいちばん危険なので、必ず相談してください。

Q. 太っていないのに糖尿病になりました

肥満は最大の要因ですが、唯一の原因ではありません。膵炎の後遺症、ホルモンの病気、ステロイドの長期使用などが背景にあることもあります。検査で背景を確認したうえで治療を組み立てます。

まとめ

  • 猫の糖尿病のサインは「よく食べるのに痩せる」「水をよく飲む」「尿が増える」の3点セット
  • 食欲が落ちないため見逃されやすい。肥満が最大のリスク
  • 猫は緊張で血糖が上がるため、フルクトサミンを併せて診断する
  • 治療はインスリン注射と高たんぱく低炭水化物の食事。注射は慣れれば数分で終わります
  • 早く・しっかり管理すれば、インスリンが不要になる「寛解」もある
  • 食べていない日は打たない。ふらつき・けいれんは低血糖のサイン
  • 急な食欲不振・嘔吐・呼吸が速いはケトアシドーシスの可能性。緊急です

南アルプス市を中心に、甲府市・韮崎市・中央市・昭和町など周辺地域で、愛猫の飲水量や体重の変化が気になる場合は、アルプス動物病院までお早めにご相談ください(TEL: 055-269-5539)。

この記事の監修:アルプス動物病院 院長

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