猫の甲状腺機能亢進症|食べるのに痩せる・夜鳴きのサインと検査・3つの治療法を獣医師が解説
「最近よく食べるのに痩せてきた」「夜中に大きな声で鳴くようになった」「落ち着きがなくなった」——シニア猫でこうした変化があったとき、疑うべきなのが甲状腺機能亢進症です。
この病気の難しいところは、初期に「元気になった」ように見えることです。よく食べ、よく動くようになるため、飼い主さんはむしろ安心してしまいます。ですが体の中では、心臓も腎臓も全力で走り続けているような状態で、確実に消耗が進んでいます。
治療でコントロールできる病気です。この記事では、サインの見つけ方、検査、3つの治療法、そして腎臓との関係までをまとめました。
甲状腺機能亢進症とは
甲状腺は首にある小さな臓器で、体の代謝のスピードを決めるホルモンを出しています。この病気では、甲状腺が腫れてホルモンを過剰に分泌し、全身の代謝が必要以上に高まります。
アクセルを踏みっぱなしの状態だと考えてください。エネルギーをどんどん消費するので、食べても食べても痩せていきます。心臓は速く打ち続け、血圧も上がります。
10歳以上の猫でよく見られる病気で、シニア猫の体重減少の代表的な原因のひとつです。ほとんどは甲状腺の良性の変化によるもので、腫瘍が原因のことはまれです。
【チェックリスト】見逃したくないサイン
体の変化
- 食欲があるのに体重が減る(この病気のもっとも特徴的なサインです)
- 毛づやが悪くなる、毛がパサつく
- 背骨や腰骨が触って分かるほど筋肉が落ちてきた
- 水を飲む量・尿の量が増えた
- 嘔吐や下痢が増えた
行動の変化
- 夜鳴きが増えた(シニア猫の夜鳴きは、認知症より先にこの病気を疑います)
- 落ち着きがなく動き回る
- 興奮しやすい、触ると怒るようになった
- 以前より攻撃的になった
ここで強調しておきたいのは、「元気になった」は喜ぶべき変化とは限らないということです。10歳を超えた猫が急に活発になり、よく食べるようになったら、一度検査を受けてみてください。
放置するとどうなるか
高いホルモンに全身がさらされ続けると、次のような影響が出てきます。
- 心臓への負担:心拍数が上がり続け、心筋が厚くなります。進行すると心不全を起こします
- 高血圧:網膜の出血や剥離で、突然目が見えなくなることがあります
- 筋肉の消耗:歩けないほど痩せてしまうこともあります
とくに急に目が見えなくなった(ぶつかる、瞳孔が開きっぱなし)という場合は、高血圧による網膜剥離の可能性があります。早く対処すれば視力が戻ることもあるため、すぐにご連絡ください。
当院での検査
身体検査
体重、心拍数、血圧を測ります。首を触って甲状腺の腫れを確認できることも多く、これは診察室でできる重要な手がかりです。心拍数が明らかに速い、心雑音があるといった所見も参考にします。
血液検査
甲状腺ホルモン(T4)を測定します。数値が高ければ診断がつきます。比較的簡単に調べられる項目なので、シニア猫の健診に組み込んでおく価値が高い検査です。
ただし初期では数値がはっきり上がらないことがあり、一度の検査で確定できない場合もあります。その際は、時間をあけて再検査をします。
あわせて腎臓と肝臓の数値も必ず確認します。この理由は、次の節で説明します。また、体重が減って水をよく飲むという症状は糖尿病でも起こるため、血糖値もあわせて確認します。
→ 猫の糖尿病|食べるのに痩せるサインとインスリン治療・寛解の可能性
費用について:検査の内容によって変わります。事前にご説明してから進めますので、お電話でお気軽にお問い合わせください(TEL: 055-269-5539)。
腎臓病との関係 — ここが重要です
この病気を理解するうえで、いちばん大切な点です。
甲状腺ホルモンが高いと、腎臓を流れる血液量が増えます。その結果、腎臓の数値が実際より良く見えてしまうのです。言い換えると、甲状腺機能亢進症が腎臓病を覆い隠している状態です。
そのため、治療を始めてホルモンが下がると、隠れていた腎臓病が表に出てくることがあります。「治療したら腎臓が悪くなった」ように見えますが、実際には最初からあった腎臓病が見えるようになっただけです。
だからこそ、治療はいきなり強くかけるのではなく、腎臓の様子を見ながら少しずつ進めます。治療前に腎臓の数値を確認しておくのも、この判断のためです。
3つの治療法
① 内服薬
もっとも一般的な方法です。甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を、毎日飲ませます。効果が出るのが早く、量の調整もできるため、腎臓の状態を見ながら進められるのが利点です。
一方で、生涯続ける必要があります。薬を飲ませるのが難しい子には、耳に塗るタイプの製剤が選べる場合もあります。
② 食事療法
ヨウ素を制限した療法食を使う方法です。甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素を減らすことで、分泌を抑えます。
投薬が難しい子に向いていますが、その療法食以外を一切食べさせられないという条件があります。おやつも、ほかの猫のフードのつまみ食いも不可です。多頭飼育では現実的に難しいことがあります。
③ 放射性ヨウ素治療
専門施設で行う治療で、根治が期待できる唯一の方法です。異常な甲状腺の組織だけを選択的に壊します。
ただし実施できる施設が限られ、1〜2週間の入院が必要で、費用もかかります。また腎臓病が隠れている子では慎重な判断が必要です。ご関心があれば、その子の状態をふまえてご説明し、必要に応じて紹介先をご案内します。
どの方法が向いているかは、年齢、腎臓の状態、投薬のしやすさ、ご家庭の状況で変わります。一緒に考えましょう。
治療中に気をつけること
- 定期的な血液検査を続ける:ホルモン値だけでなく、腎臓の数値も確認しながら薬の量を調整します
- 体重を記録する:治療がうまくいっていれば体重が戻ってきます。いちばん分かりやすい指標です
- 自己判断で薬をやめない:元気になったからといって中断すると、すぐに元の状態に戻ります
- 食欲の変化に注意:治療で代謝が正常に戻ると食欲も落ち着きますが、食べなくなりすぎる場合は量が効きすぎている可能性があります
→ 犬・猫の健康チェック完全ガイド|毎日の観察と触診、定期健診の頻度と内容
よくあるご質問
Q. よく食べて元気なのに、本当に病気なのでしょうか?
その「元気」は、代謝が異常に高まっている結果です。体は常に全力運転の状態で、心臓にも大きな負担がかかっています。体重が減っているなら、元気に見えても消耗が進んでいる証拠です。治療すると落ち着いた本来の様子に戻ります。
Q. 夜鳴きは認知症だと思っていました
シニア猫の夜鳴きでは、まずこの病気と高血圧を疑います。認知症と判断する前に、血液検査でホルモン値を確認してください。治療で夜鳴きがぴたりと止まることもあります。
Q. 薬は一生飲ませないといけませんか?
内服薬と食事療法は、続けることで状態を保つ治療なので、やめると戻ります。根治を目指すなら放射性ヨウ素治療という選択肢があります。ただし内服でコントロールできていれば、それで何年も穏やかに過ごす子が多くいます。
Q. 治療を始めたら腎臓の数値が上がりました。失敗ですか?
失敗ではありません。上で説明したとおり、隠れていた腎臓病が見えるようになった状態です。想定されることなので、ホルモンと腎臓のバランスを見ながら薬の量を調整していきます。治療をやめるという判断にはなりません。
まとめ
- 10歳以上の猫に多く、「食べるのに痩せる」「夜鳴き」「落ち着きがない」が代表的なサイン
- 初期は「元気になった」ように見えるため、見逃されやすい
- 放置すると心臓への負担、高血圧による失明につながる
- 血液検査で比較的簡単に分かる。シニア猫の健診に入れておく価値が高い
- 腎臓病を覆い隠していることがあり、治療後に腎臓の数値が出てくるのは想定内
- 治療は内服薬・食事療法・放射性ヨウ素治療の3つ。その子に合うものを選ぶ
- 自己判断で中断しない。体重の記録が治療の手がかりになります
南アルプス市を中心に、甲府市・韮崎市・中央市・昭和町など周辺地域で、愛猫の体重減少や夜鳴き、落ち着きのなさが気になる場合は、アルプス動物病院までお気軽にご相談ください(TEL: 055-269-5539)。
この記事の監修:アルプス動物病院 院長
最新情報は、下記の公式LINE・Instagramからご覧いただけます📱✨


